非日常への誘い
素材の質感と陰影の美が息づく住まい。心やすらぐ日々を愉しむ。
プロデューサー樋口邸 | 戸建てリノベーション
素材の質感と陰影の美が息づく住まい。心やすらぐ日々を愉しむ。
プロデューサー樋口邸 | 戸建てリノベーション
前職での経験を活かし、自邸は自ら設計したい。
そんな想いを抱いていたIFAプロデューサーの樋口が、自らの夢を叶えたのは、2017年のこと。
あれから7年。
今なお様々な構想を練り、次なる目標に向かって家づくりを現在も続ける樋口邸を訪ねました。
樋口が自邸に選んだのは、自身の祖父母が新婚当時の両親のために建てた家。
両親は同じ敷地内にある母屋に移ったため、築40年の木造2階建ての離れを受け継ぎ、再生させることに。
こだわったのは建替えではなくリノベーション。
祖父母や両親の家に対する想い、そして幼少期から過ごしてきた家に詰まった自身の思い出を残したい
という気持ちが強かったからだそう。
リノベーションでは、間取りを変更したりと大きく手を入れたものの、家の構造や天井の梁は当時のまま。
そんな住まいを眺めながら、「両親が住んでいた頃の雰囲気は残せたんじゃないかな」と樋口はリノベーション当時を振り返ります。
リノベーションという選択をした場合、大きな課題となるのが、構造上、取り去ることのできない柱や梁、壁。
これらと折合いをつけるのは難しいことかと思いきや、「逆にワクワクしたんです!」と話す樋口。
制約があるからこそ、導かれるように生まれてくる発想があるのだそう。
その一つがLDKでひときわ目を引く柱や壁。
空間を眺めているうち、既存の柱や壁にあえて厚みをもたせ、存在感を出すことを考えました。
「既存のものだけでなく、あえて新たな壁を加えたりもしました」。
この結果、リビングダイニングキッチンはつながりながらも緩やかにゾーニングされ、メリハリのある暮らしやすい空間に。
柱や壁はいたずらにふかすだけでなく、埋込みタイプの収納を併設する工夫もしました。
「キッチンはアイランドがいい!」
それが奥様唯一のリクエストでした。
プラン当初は、明るく開放的な空間で、家族みんなの顔を見ながら料理がしたいとの想いがあったのだそう。
しかし、ダイニングキッチンの広さを考えると、面積を要するアイランドを据えるのは難しく、
キッチンは壁付けタイプへ。「唯一のリクエストだったのに…(苦笑)」と奥様。
紆余曲折を経て、全長4.2mの意匠性と機能性を備えた壁付けの造作キッチンは、
IFAの家具部門・廿日市家具製作所の職人が手がけたもの。
面材は木の板目が美しいものや、あえて節が残ったものにこだわり、天板はモールテックスによる左官仕上げに。
素材の荒々しさや繊細さは、そのままキッチンの表情となり、空間に豊かな彩りを添えてくれます。
「アイランドが唯一のリクエストではありましたが、壁付けの方が幅が広く、背後のダイニングテーブルを
2列型キッチンのように使えるので使い勝手がいいんです。結果的に壁付けにしてよかった!」
と奥様。一人の世界に入り、集中して料理できるのもよいのだとか。
壁に設けた小窓もお気に入りで
「実はこの窓、玄関口に面していて、家を出入りする家族に声をかけられるようになっているんですよ!」と、とっても嬉しそう。
「いってらっしゃい!」
とキッチンから家族に笑顔で手を振る姿が目に浮かびますね!
20世紀を代表するメキシコの建築家ルイス・バラガン。
バラガンの特徴は、素材のテクスチャーの粗さ、色、厚みを活かした空間づくり。
重厚で静寂で、あの包みこんでくれるような落ち着きはどこから来るのか。
学生の頃からバラガンの建築が大好きだと話す樋口は、自身の憧れを独自の探求と解釈で自邸に落とし込んだと言います。
その象徴と言えるのが、玄関を開けてまず目に入る階段の踏み板。
板に厚みをもたせることで、木材の美しさや力強さを引立たせています。
あえて厚みをもたせて存在感を出した壁は左官仕上げで、ごつごつした粗さを表現。
踏み板の木の風合いと合わせて、ホール全体に心地よい重厚感に満ちた雰囲気を生み出しています。
リビングやキッチンに足を踏み入れれば、棚の板一つひとつにも厚みをもたせて、
素材の存在感を引出しているのが分かります。
そうした素材の質感もまた、空間に落ち着きをもたらす要素となっています。
「光をどう取り入れるかは、空間を演出する上でものすごく大事なことだと思っています。
普段からプロデューサーとして、理想とする空間の雰囲気に合わせた光の取り入れ方をお客様にアドバイスすることを心がけています」
と話す樋口。
自身が手がける家で思い描いたのはヨーロッパの、それも地方都市にて古くから住民の生活に根付く素朴な教会。
石造りの薄暗い内部空間に、小さな窓からすっと差し込む、趣のある光。
それが自分の感性に響くのだとか。
樋口邸では、明るすぎると感じた南側の一部分にはあえて分厚い壁を設けて窓を2分割し、開口部を絞る所作を加えました。
壁を厚くすると同時に窓辺に奥行きも与え、窓から差し込む光はワンクッションおいて室内へ。
自然光の量を調整し、厚みのある壁を通して柔らかな光が入るその空間には情緒的な陰影が映し出されます。
そんな陰影の美しさは、住まうご家族、訪れる人を非日常へと誘います。
LDKに足を踏み入れた瞬間、目を引くのが斜め張りのフローリング。
LDK全体が動きのあるのびやかな印象に。
もし壁に対して垂直に張られていたら、空間の印象はまた違ったものになっていたでしょう。
どんな張り方をするかによって、空間の雰囲気は大きく変わるのです。
フローリング材に選んだのは、オークの無垢材。
足裏からは、木のぬくもりや自然の「気」がしっかりと伝わってくるのが分かります。
また平均的なフローリング材の幅は90mmですが、樋口邸では150mmに設定。
幅を広くすることで、木材がもつ色味や美しい木目が際立ち、空間にはゆったりとした心地よさが醸し出されています。
樋口邸のリビングには、家族とつながりながらも、一人の時間を愉しめるおこもり空間があります。
その一つがリビングの片隅にあるデイベットコーナー。
お子様が小さい頃は、もっぱらおもちゃであふれるプレイコーナーとなっていましたが、
今後は、ご家族それぞれが読書をしたり、ティータイムを愉しんだり、少しのお昼寝をしたりして、
窓辺での時間を楽しめるような空間づくりを目指し、まずは張地のクッションを設える予定だそうです。
天井の高さにもこだわり、天井高を2mに抑えることで視座を低くし、おこもり感を演出。
天井を見れば、ふところを無駄なく利用できる収納スペースがしっかり確保されています。
隣の和室は、座の空間へ移行する行為の格式を上げるべく、200mmの小上がりに。
客間であり、夏場の寝室としても活用。
中心の炉は、お母さまがお茶をたてられるよう設けたスペースなのだそう。
伝統的な縁付きの日本畳にこだわりつつも、モダンなリビングと雰囲気が合う空間になっています。
「この家、居心地が良すぎるんです(笑)」と奥様。
旅先で色んなホテルに泊まってきましたが、この家にまさる居心地にはなかなか出会えないのだそう。
それほどまでに心地よさを感じられるのは、素材の質感や陰影がもたらす独特の雰囲気と落ち着き、
そして無垢のオーク材や漆喰といった自然素材による空気感も大きいのだろうと、樋口は話します。
無垢材や漆喰は、自然の調湿機能が備わっていることもあり、
暑い夏でも家に入ればすーっとした空気を、冬はほんのり温かい環境をつくってくれるのだそう。
そんな居心地の良い家には、ご両親はもちろん、親族も集まってきます。
みんな「集まるならこの家だよね!」と定期的に樋口邸を訪れ、誕生日会を開いたりしているそうです。
お母さまからは、「明日友達がくるからリビングを使わせてもらうね!」と急な連絡が入ることも…(笑)。
IFAで自邸をリノベーションした樋口。
あらためて大切だと感じるのは、家づくりのプロセス。
理想の住まいのカタチは、建築家との対話の中から生まれてきます。
だからこそ、プランニングや素材の選定、空間の創造といったプロセスを大事にしなければならないと語ります。
時間をかけて一つひとつを進めていくからこそ、想像を上回るような、唯一無二の邸宅が完成します。
IFAでは、建築家と納得のいくまで打ち合わせを重ねながら、じっくりと創造のプロセスを踏んでいくことを大切にしています。
樋口邸は今も家づくりが続いています。
次なる目標は、絵画や写真、オブジェを充実させ、空間にアクセントを加えていくこと。
壁には、絵画を照らす照明がすでに取り付けられており、
「あとは、素晴らしい作品との出会いを待つばかりです」と、楽しそうに話します。
また縁側のある庭を仕上げて窓のブラインドを外し、室内にいながら外との一体感を愉しめるようにもしたいそう。
今なお、創造のプロセスを楽しんでいるのが伝わってきます。
これから樋口邸がどう変化していくのか、私たちも楽しみで仕方がありません!