アウトドアリビングと暮らす家
ルーフテラスを第2のリビングに
建築家:交久瀬 常浩 | 新築注文住宅
ルーフテラスを第2のリビングに
建築家:交久瀬 常浩 | 新築注文住宅
2020年に竣工したO様邸。
ご夫婦それぞれのこだわりを詰め込んだ、ご自宅でアウトドアを楽しめる住まいです。
「交久瀬先生がつくる空間が好きなんです」
と、プロデューサー樋口との土地探しの段階から交久瀬先生が手掛けた見学会には必ず参加くださり、
解説を聞いて情報収集をしながら、樋口や交久瀬先生と家づくりのイメージを膨らませておられました。
そんな過程もあり、いざ土地が決まると、その後の打ち合わせはとてもスムーズに進んでいきました。
濃密な設計打合せと工事期間を経て完成したO様邸。
ご縁あって大阪ガス発行の季刊誌「住まう」よりオファーをいただき、お引渡しより2年経った今の暮らしについて、
建築家の交久瀬先生、プロデューサーの樋口、そして「住まう」編集チームでお話を伺いました。
以下、住まう Vol.78掲載記事より引用
二人のお子さまを育てながら、ともにお勤めに出られているOさまご夫婦。
以前は近くのマンションにお住まいでしたが、毎月の家賃のことを思うと、そろそろ自宅を購入してもよいとお考えでした。
そんなOさまが、「株式会社IFA住宅設計室」が開催していた住宅の完成見学会を、
たまたま見かけて飛び込んだのがきっかけになり、以降何度も、住宅関連の催しに足を連ぶようになりました。
実際に土地を探し始めたのもこの頃からでした。
「変わった家が好き」という奥さまと、「変形地でも、建つ家の姿を想像すると魅力を感じる」というOさま。
しかしそんなお二人のご要望に沿う土地はなかなか見つかりません。
Oさまの実家に近い枚方での土地探しは、結局今の場所にたどり着くまでに長い月日がかかりました。
O邸を設計した『ジーピーアソシエイツ』の交久瀬常浩さんとOさまご夫婦は、IFA住宅設計室の紹介で知り合いました。
IFA住宅設計室は枚方を中心に、建築家との家づくりを身近なものにし、家を「買う」ではなく、
後の愛着へとつながる家を「つくる」というプロセスを提供し、家づくりのあるべき姿を追求している会社です。
同社の樋口真司さん日く「見学会でのご様子やお二人のお話から、
交久瀬さんがいちばんご夫婦の感覚に合うと思って紹介しました」とのこと。
交久瀬さんも、「私の家づくりを見て気に入ってくださる人は、素材やデザインヘの思いも強く、
人とは違った家にしたいという方が多いです」と、話されます。
長い月日のうちにも何度か土地が決まりかけたことがありましたが、
交久瀬さんはその都度、この敷地ならこんな家が建つというイメージを手描きして、
Oさま夫婦に見てもらったといいます。
今の土地には古い家が建っていましたが、売りに出たときからご夫婦ともに気に入り、すぐに購入の手続きをしました。
その土地をベースに、Oさまご夫婦の膨らむ夢と交久瀬さんの専門的な知識を織り交ぜながら、
イメージ図と設計プランを何十回となく描き直し、Oさまご夫婦が納得される家づくりを進められました。
O邸の特徴は、雰囲気のある煉瓦を積み上げた大きな外壁と、家の中で屋外の気分が味わえる2階のアウトドアリビングです。
プランの変更を重ねながら今の形に落ち着くまで、このふたつだけは計画当初からほとんど変わることはありませんでした。
外壁は道路面からの覆いになるものですが、T字路の角地にあることから、遠くからも見通せる外観のシンボルにもなります。
交久瀬さんが提案した、上海の古い建物を解体した際に出た古煉瓦を使った壁は、色合い、雰囲気ともにO邸にぴったり。
材料費や建築費はかさみましたが、外観はこの煉瓦壁ありきでのデザインに絞り込みました。
完成後、6mもの高さにそびえる外壁を見て、友人からは「まるで要塞みたい」といわれるそうです。
その出来栄えの美しさに、「質のいい住宅を建てて、街並みの雰囲気づくりにも貢献したい」
と考えているIFAの樋口さんも満足されました。
防火構造でいかにも頑丈そうな外壁を見ていると、O邸が木造だということを忘れてしまいそうです。
壁が建つ外構の基礎部分には低木が植栽されていますが、足元に敷き詰めた砂利にも工夫がこらされています。
茶から薄ネズの煉瓦を組み合わせた配色に合わせ、基礎部分には通常の砂利より大きくて色も濃いグリ石を敷き詰めていますが、
これも「要塞」の雰囲気につながっているのかもしれません。
Oさまのもうひとつのこだわり、アウトドアリビングは、
1階に中庭を置く案や、日除けのタープを張る案など、幾通りも検討されましたが、
最終的には現在の2階にルーフテラスを設け、室内リビングと隣り合わせた形のアウトドアリビングにする案に落ち着きました。
山登りやキャンプをはじめ、オートバイやサイクリングなど、典型的なアウトドア派のOさま。
奥さまと二人のときも、ご家族で旅行に行くようになってからも、行く先はやはり屋外で楽しめるところが多いといいます。
ルーフテラスでは、休日のプランチや夕涼みなどの憩いのほか、友人を招いてのバーベキューやプール遊び、
お子さまの縄跳びや一輪車の練習など、ルーフテラスは大活躍です。
また、ルーフテラスに面したリビング、ダイニング、階段室には大きな窓をつけて、
家中どこからでも見通せるようになっています。
O邸は道路との境界に建物がせまっていることもあり、建物の高さに斜線制限がかかっています。
交久瀬さんは地上に差し込む光を計算する指標、天空率を用いて、建物の高さ制限を一部解除しました。
約3.7m幅の外壁を立ち上げて、その内側に室内リビングをレイアウト。
こうしてリビングにV字型に切り込んだバタフライ天井が誕生しました。
O邸に初めて来た友人は、家中で「これは何?」と驚かれるといいますが、リビングのバタフライ天井もそのひとつです。
一見いびつな形で過ごしにくそうですが、しかしOさまもお子さまも、このリビングで狭さを感じることはないといいます。
むしろ、外リビングとの連続性や、小窓でキッチン奥のパントリーや天井裏のロフトともつながっているつくりが面白く、
お子さまたちの格好の遊び場になっています。
奥さまも「気がついたらバタフライ天井のリビングで、ソファーに座る(寝転ぶ?)のが定位置になっています」とのことでした。
ただ、構造的に雨がV字の谷折れ部分に集まるため、「施工時には最大の注意を払いました」という樋口さん。
そのため下地を打った上で内側にも板金をし、さらに樋を設けて万全を期しています。
本来なら屋根の傾斜に沿って道路側の天井が低くなるリビングでしたが、交久瀬さんの設計の妙で、
圧迫感のない個性あふれる形になりました。
アウトドアリビングに面した東側だけでなく、西側にも広い開口部がとれているのも、
リビングの開放感につながっているのかもしれません。
ご家族で使うキャンプ用品などは、屋根裏に設けた4.5畳大のふたつのロフトに収納されています。
さらに玄関脇の天井奥には、交久瀬さんが空いたスペースを活かして設計した2畳ほどのロフトがあります。
他のご家族が立ち入らないため、いわばOさま専用の『隠し部屋』のようになっています。
奥さまのご要望は、ウォークインやシューズクローゼットなどの収納をたくさんとることと、
キッチンを独立した部屋に配置することでした。
調理後の様子を見られたくないという理由だったので、あえて壁に向かった位置にキッチンをレイアウトして、
ダイニングとは切り離しました。
パントリーはさらにその奥に配置したので、来客などの視線はまったく届きません。
またキッチンとダイニングの仕切りにはカウンターがつくり付けてあります。
一枚板でつくられたダイニングテーブルと同じ材質が使ってあるので、室内がまとまった印象になっています。
リビングにつくり付けた約3.6m幅のテレビ台も同じ材質です。
これらはいずれも交久瀬さんとOさまが材木屋さんで選んで買い付けた一枚板でつくられています。
「基本的に、O邸のベースになっているブラックウォルナットに合わせてインテリアを選びました」という交久瀬さん。
真鍮や船舶用の照明なども、O邸の雰囲気に合った備品を揃えられました。
家の完成後、奥様は「住みやすくて面白いのに、バランスが取れています。
お話ししていたことがすべて形になりました」と大満足です。
Oさまは、「設計の1年間、ほぼ毎週あった打合せがなくなったので、逆にちょっとした家づくりロスになりました」
と当時を振り返って笑われていました。
快くインタビューに応じてくださったOさま、本当にありがとうございました。
そして今後ともどうぞ宜しくお願い致します!
文章:大阪ガス発行「住まう Vol.78」の特集・自宅でアウトドアが楽しめる住まいでのインタビュー記事を引用
竣工写真:笹倉洋平 インタビュー写真:鞍留清隆、プロデューサー樋口真司