去る3月、香里園の駅から徒歩でも5分程の場所にある、築87年の木造二階建ての住宅・八木邸を、建築家である交久瀬先生につれられ、室長菊井、明子、現場監督の丹田、アシスタント中井、そして私プロデューサー益田の有志メンバーで訪問して来ました。
大正から昭和にかけて活躍した、建築家の藤井厚二が手掛けた住宅です。
代表的な作品としては京都の大山崎に現存している「聴竹居」があります。
藤井氏は環境工学に関心を高め、日本の風土に適した住宅を理想として設計を行いました。冷房がまだ一般家庭に整っていない時代、この聴竹居では和室と居間との繋がりを小上がりにし、その段差には夏の西風が通り抜ける通気口を設けました。
熱や湿気が各室の天井部分の排気口を通じて空気が屋根裏へと抜ける流れをつくり、一年を通じて快適に過ごせるよう、実験を繰り返し確立させました。
そして二年後、同じ手法を取り入れた八木邸が手掛けられました。
外観は幾層にも重ねた銅板葺きと瓦屋根の対比がうまく調和しており、御影石を三段上がった玄関扉には文様的にガラスがはめ込まれ、脇の三角照明もモダンです。
各室は当時の暮らしをしのばせる調度品がそのまま展示されていました。
東の奥にある調理室などは床板を除いた木部すべてが白く塗装されていて、
漆喰の壁と合わさって明るく楽しい雰囲気。当時三人の女中さんが居たとのこと。
応接室は造り付けのソファの横に床の間という和洋折衷も
違和感なく落ち着いていました。
私が特に気に入ったのは一階の書斎。南西の角に内障子の入った窓があり、柔らかい光が差し込んでいて、その横に当時の机と椅子が置かれている。この空間にはときめいた。
その他、部屋数が多く全て伝えきれませんが、家具やテーブル、照明器具までも藤井氏自身がデザインし、究極には「藤焼」と称して施主に贈った陶芸の焼き物が飾られていました。
百坪の敷地に現存している希少な木造住宅。
室内の写真は公開不可となっており、この場でお伝えできないのが、とても残念です。完全予約制ですが、枚方近郊にある名建築のひとつ。
ぜひみなさんも一度訪れてみてはいかがでしょうか。
連れて行ってくださった交久瀬先生によると、同じ敷地内に立つ隣の住宅は、フィンランドが生んだ20世紀の巨匠アルヴァ・アールトの、唯一の日本人の弟子である武藤章の作品だそう。
こちらはまだ住宅として使われているため、見学はできませんが、アアルトのデザインを受け継いだ住宅を外観だけでも十分に楽しめます。
八木邸を訪れた際はぜひあわせてご覧ください。
建築プロデューサー 益田大治