IFAの建築家によるエッセイです。
毎日の中にあるちょっとした出来事も、建築家の目線で見るとどんな風景に写るのでしょうか。今回は建築家・交久瀬常浩氏に、「秋と建築」をテーマに綴っていただきました。
谷町6丁目は木造の長屋が多く残る大阪の下町です。
友人の持つ古いビルのリノベーション工事を終え、ご褒美に近所で食事とBARに連れていってもらいました。
決して一人ではたどりつけないその店は細い路地の奥にあり、とんでもなく重い鉄のドアを開けると、そこは潜水艦の内部そのものです。
BGMはなく、聞こえてくるのは冷蔵庫のインバーターの音のみ。重い椅子、明滅するランプを見ていると、海の底は電気も不安定なのかという気にさせられます。
かつての映画ファンにはたまらない「海底2万マイル」「Uボート」を彷彿とさせるインテリアは、今はなき劇団維進派の舞台美術チームによるものです。信じられないほど巨大な舞台セットをつくり、宴が終わると跡形もなく消え旅に出る。そんな野外劇団があったことを一つの記録として、この「BAR深化」は存在しているのかもしれません。
文:建築家・交久瀬 常浩(2019年10月発行 IFA住宅設計通信73号より)
BAR深化:大阪市中央区安堂寺町1-1-10